年内の店頭販売を終え、ホッと一息ついていた時に一通のメッセージが。
モザイク彫刻家の碧亜希子さんが個展をされていて、良かったら来ませんかとのお誘い。
「飲食業の方をお誘いするのは気が引けるのですが、来るならカメラを忘れずに(にっこり)」という事実上の赤紙をいただいたので、「気にはなってるんだけどな…」という気持ちの背中を押していただき、マスクをぴしっと装着して行って参りました。

会期の最終日に伺ったので個展の様子はSNSで拝見していて、今回は
昨年の個展に比べてずいぶん具体的なモチーフを多く取り上げられていたのが気になりました。
本来であればまずは作品をじっくりと拝見し、作品にこもったメッセージやエネルギーを自分なりに感じ取って咀嚼するのがマナーかと思うのですが、「マナーと障子は破るためにある」がモットーの人間(前世は猫)なので行くなりビリビリッと「今年の、めっちゃ具体的ですね」と作家さんご自身に訊いちゃいました。
そんな不躾な所作に慣れっこの碧さんは困った顔ひとつされず、「今年は自分も社会も大変なことになって相当疲弊していた。そういう時に抽象表現は観る人との距離が遠い気がして。今年はどんなことをしてでも観る人に歩み寄りたかった。
制作時期によって抽象的な作品もあるけれど、個展としてメッセージの一貫性を維持するよりも、『2020年はこんな年だった』ということを残しておきたいと思った」とのこと。
確かに抽象表現の「輪郭のある正解がない感じ」も楽しいけれど、観る側にエネルギーやモチベーションを求める部分はあるもんなぁ。そういう意味では「具体」って助かる。
鑑賞前に「とにかく今年のぜんぶが展示してある」という補助線をいただいたので少しリラックスして観ることができました。その様子を写真にておすそ分けさせていただきます。

入ってすぐにはぽってりとした作品「雨のもどりみち」がお出迎え。
まんまるで穴の空いたタイルも碧さんの手によるものなんですよ。
この距離感、この愛らしさのつつましい感じがとても碧さんらしいと思います。

その上には白を基調とした作品。
本来ならモルタルを流してお好み焼きのようにひっくり返し、隠してしまう裏面のでこぼこに石の魅力を見出したところにヒネリが効いてます。

剥き出しの内面を認めていく、というところに温かな赦しを感じます。

その下には今年、ド肝を抜かれた新しい試み、アマビエさま達が。

目と鼻があるだけで途端にわかりやすくカワイくなるなぁ。

奥にはデザイナーさんや職人さんとのコラボレーションで作られたランプが。
ランプシェードはへら絞りという加工技術で、いろんな形を一点から作れるものなんだそうですよ。
「人と繋がる」ということの大切さを改めて考えさせられた一年でもありました。





ちょこんとトグルスイッチがついてるの、いいですね。

奥の壁には「ZOOM在廊」というこれまた新しい試みが。
碧さんが在廊されていなかった時にはアトリエと繋がってお話ができたそうです。
愛犬まろちゃんも個展に参加するアプローチ、面白いです。
こちらのギャラリー、『
同時代の茶室 ラ・ネージュ』の亭主・四方さんにとっても今年は変化と発見の一年だったそうで、「実際に足を運んでもらってナンボ」だったギャラリーにオンラインを介して人と人が繋がっていく、そのダイナミックな「こんなのもアリ」という発見は新しい可能性との出会いだったそうです。
そう思うと「テレワーク」を筆頭に、テクノロジーによって人と人、場所と場所が繋がる一年でもありました。

雪のように白い作品をスクリーン代わりに「うちで踊ろう」が。
そう言えば400枚を超える写真が碧さんからどーんと送られて「これを『うちで踊ろう』に合わせて動画にしてください」と言われたのも今年でしたっけ。

そして今年を象徴する作品たちが並べられた空間へ。

木の板をモザイクで埋め尽くさない試みを観るのも初めてならば、枝というモチーフも初めて観ます。

具体的に、身体的に「見上げるものを作りたかった」と碧さん。

精緻な技術はもちろん、接着面を見せないように木を少し掘ってから石を並べていくニクい仕事も素敵です。

こちらも枝をモチーフにされた作品。
木の枝は成長に際し、不要になれば自ら細い枝を落とし、その傷口を覆って成長していくそうです。
そんな木の在り方に惹かれたというお話を伺いました。

「外に放たれていくエネルギーよりも、内を巡り、循環するものを愛おしいと思う」と碧さん。

「細い枝を落とし、治っていく幹」にインスピレーションを受けた作品は月に雲がかかるようにも見えました。

近づけば近づくほど、見れば見るほどに時間の流れがゆっくりになり、ついには止まってしまいそうです。

その横には枝を手に持つ作品がありますが…

枝が少し浮いています(本当に細かい作業が美しい…)。

光が当たると影の枝を掴みました。
言葉少なに「影があるところには、光があるから」と言っていたのが印象的でした。

最後は石と話しあった記録のような作品で締めくくられていました。

またこういった作品ともじっくりと安心して向き合える日がくるといいですね。

碧さん、四方さん、とても素敵な展示と時間をありがとうございました。